「この、メイドや執事の見習いが勉強をする部屋を見て、見事その違和感に気が付いたルディーン君への質問じゃ」
冒険者ギルドや他のご飯屋さんだと、背もたれが無い椅子を使ってるとこが多いのかぁって僕が感心してたらね、ロルフさんが問題を出してきたんだ。
「メイドや執事の仕事を覚えるにあたって、絶対に必要なものがここには欠けておる。それが何か、解るかな?」
絶対いるのに、ここにないもの?
そう聞かれた僕は、もういっぺんお部屋の中をよ〜く見渡してみたんだよ?
でもね、お部屋の中を見ながら一生懸命考えたんだけど、僕、それが何なのかぜんぜん解んなかったんだよね。
だから頭をこてんって倒しながら、う〜んって唸ってたんだけど、
「伯爵、それは少々意地悪な質問ではないですか?」
そしたらそれを見たバーリマンさんが、そう言いながらロルフさんを叱ってくれたんだよね。
これにはロルフさんも、大弱り。
すまなかったのぉって僕に謝りながら、足りないもののヒントをくれたんだ。
「見ての通り、ここには来客をもてなすための椅子とテーブルがあり、近くには厨房があるからお茶や食事などを出す場合の練習も当然できる」
「う〜ん。入ってきた後の事はお勉強できるから……あっ、そうだ! お客さんが着た時のお勉強をする場所がいるの?」
お客さんだって、いきなりこのお部屋に来るわけじゃないもん。
だから来たお客さんにいらっしゃいをするお勉強の場所がいるのかなぁ? って思ったんだ。
でもね、それを聞いたロルフさんは違うよって。
「来客を迎えるのはその館の主人か、もしそれが不在ならば家令やメイド長のような立場がするものでな、新人が覚えるような事ではないのじゃ」
「ええ。それにこの館とロルフさんの館とでは造りが違いますもの。もし勉強する必要がある場合は、やはりここではなくロルフさんの館でするべきでしょうね」
そっか、そう言えばここでお勉強するメイドさんや執事さんたちはロルフさんちの人たちだもん。
お出迎えの練習を僕んちでしたって、あんまり意味ないか。
そう思った僕は、もういっぺん他に何かないかなぁって考え直したんだよ。
でもね、何にも思いつかないもんだから、それを見たバーリマンさんがじゃあもうひとつねって新しいヒントをくれたんだ。
「もう一度ここでできる事を考えてみてはどうかしら? そしたら、足らないものが見えてくるかもしれないわよ」
「ここでできる事って、お茶を出したり、ご飯を出したりする事だよね?」
そう言ってもういっぺんお部屋の中を見てみると、広いお部屋の中にはお客さんとお話するためのテーブルや、みんなでご飯を食べるようなおっきなテーブルとかがあったんだ。
って事は、お客さんの相手をするお勉強はみんなここでできちゃうって事で……あっ、そっか!
「寝るとこだ! ここだと、このお家に住んでる人やお客さんが泊まるお部屋の練習ができないんだね」
僕がまだジャンプでロルフさんちに行ってた時はね、いつもいないのにお部屋をきちんとしてくれる人が決まってたんだよね。
前にストールさんが、その人は新人さんなんだよって教えてくれたことがあるんだ。
って事はさ、そういう所の練習も、メイドさんはやらないとダメって事なんじゃないかなぁ。
「うむ、正解じゃ」
そしてそれはどうやらあってたみたいで、ロルフさんはにっこり笑いながらよく解ったねって頭をなでてくれたんだよ。
「メイドにとって、日々の生活の中での仕事の方が来客を迎える事よりも重要なのじゃ。じゃから当初はその勉強をする部屋を用意しようと思っておったのじゃが、ライラがそれでは不十分だと申してな」
「ストールさんが?」
これを聞いた僕は、ストールさんの方を見てなんでダメなの? って聞いてみたんだよ。
そしたらさ、そういうお勉強はこんな所じゃできないんだよって教えてくれたんだ。
「先ほどルディーン様がお気付きになられた通り、この部屋は来客時の作法を覚える最低限の造りになっております。ですが日常的な仕事となると、流石に最高級とは言わないまでも、ある一定以上の設備が整っていなければ意味がありませんわ」
例えばさ、中にいる人に何かご用事がある時は、いきなり中に入る訳にはいかないから、まず最初にノックをしてお部屋の外から声を掛けるとこから始まるでしょ?
でも、もしそれもここでやろうと思ったら、このお部屋のドアから変えないとダメなんだって。
それにね、誰かが寝たらそのベッドのシーツを変えたりしなきゃダメだし、偉い人だとお着替えの時もメイドさんが手伝ってあげないとダメらしいんだ。
「せめてベッドとクローゼット、それにある程度の制度を持った姿見は必要ですわ」
「このようにライラに言われたのじゃが、流石に指導のためだけにそこまで金をかける訳にもいかなくてのぉ」
鏡ってさ、ちっちゃい奴でもすっごく高いんだよって、前にお母さんが言ってたんだ。
それにね、ベッドだって前に僕が使ってたロルフさんちのお部屋にあったのはすっごいのだったもん。
あれをお勉強のためにここに入れようと思ったら、やっぱりすっごくお金がかかると思うんだ。
「ですから、わたくしは旦那様に申し上げたのです。ルディーン様に空いている客室を使わせて頂けないか相談してみてはと」
「僕んちの空いてるお部屋を?」
「はい。この館の客室の設備は、旦那様の館のそれと比べても見劣りしないほど素晴らしい物ですから」
このお家って、入口近くの2階にはお金持ちの人が泊まるようなお部屋が何個かあるんだよね。
ストールさんはね、そのお部屋をメイドさんや執事さんのお勉強に使わせてくれないか僕に聞いてみたらってロルフさんに言ったんだってさ。
「あのお部屋って、普段でもストールさんたちがお掃除してくれてるんだよね?」
「はい。空気の入れ替えだけでなく、日々の手入れを怠ればどんなよい家具でもすぐに傷んでしまいますから」
使ってなくっても、掃除しないと家具って悪くなってくんだって。
そうならないようにストールさんたちは毎日お掃除をしてくれてるんだから、それだったらお掃除前にお勉強に使ってもいいんじゃないかなぁ? って僕、思うんだ。
「ねぇ、ロルフさん。僕、あのお部屋使わないから、メイドさんたちのお勉強に使ってもいいよ」
「おお、そうか。それはありがたい」
だからお勉強に使ってもいいよって言ったら、ロルフさんはにっこり笑ってありがとうって。
でもね、そんなロルフさんに、ストールさんはもう一個言わなきゃダメな事があるでしょって言うんだ。
「旦那様、あの話もお伝えした方がよろしいのでは?」
「ん? ああ、そうであったな」
だから僕、他にもどっか貸してほしいのかなぁ? って思ったんだけど、
「ルディーン君。客室を零度や執事の指導部屋として貸してもらえるのならば、その相手としてニコラ嬢たちも貸してはもらえぬかな?」
それはどっかのお部屋じゃなくって、なんとニコラさんたちを貸してほしいって言うお話だったんだ。
読んで頂いてありがとうございます。
1話に収まるかな? と思ったけど思いのほか長くなり、この時点でいつもの1話分に到達してしまったので今日はここまでで。
さて、メイドや執事たちの指導部屋、簡易に作ってあるとは言っても実を言うと結構なお金と時間がかかっています。
それはそうですよね、自動織機なんてない時代に床一面の布や、各テーブルにかける布などを用意しているのですから。
しかし、それを軽々と用意できるロルフさんでも、流石に客室用の家具となるとそうはいきません。
特に大きな鏡となるとそれを磨く事ができる職人は殆どいないので、お金があったとしてもすぐに手に入れられるようなものではないんですよね。
ですから、急いで手に入れようと思うと誰かから譲り受けるしかない訳で。
流石にもと伯爵といえど、揃えるのは難しいと言う訳です。